JAPANESE FOREST

Column

木材の加工
縄文時代の日本の家

日本木材の耐久性、耐火性、耐震性、防蟻技術

日本人はいまから約5,000年前、縄文時代の頃から計画的に木を植え、利用してきました。日本の北部、青森県にある三内丸山遺跡では、もともとあったブナやミズナラの森林を、クリの木の単純林に植えかえています。栗の木は実が美味しいだけでなく、用材としても優れた樹木であり、縄文人は意図的に栗の木を管理し育成していたと考えられています。このように、日本人は長年にわたり自ら森をつくり、そこで採れる木材を生活の中で活用してきました。特に、第二次世界大戦後、大きな被害を受けた日本は、国内を復興するために多くの木材が必要となりました。そのため、荒廃した山々にスギヒノキなどの植林を進め、1960年頃には約570万haであった日本の人工林の面積は、1980年頃には約1,000万haを越える規模まで拡大しました。そしてその時期に植えられた樹木は50年~60年の歳月をかけ、成熟期を迎えており、伐採する年齢に達した森林が大半を占めています。

森林に木を植える

成熟した森林を伐採し、新たな森林を造林することは、地球環境にとっても非常に重要なことです。樹木は、その成長過程で大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、地球温暖化の防止に貢献しています。伐採され木材になった後も、吸収した二酸化炭素を排出せず、燃やさない限りは内部に固定させているのです。そのため、伐採した木材は日本国内だけでなく、海外でも活用してもらうことが重要だと考えています。日本には木とともに歩み育ててきた高度な「木の文化」があります。日本で伐採した木材に、高度な加工技術を付与し、高い付加価値の付いた木材製品を海外に輸出していきたいと考えています。

日本には、耐久性や耐火性など優れた性能を付与した木材や、日本の伝統的な焼きスギなど、高度な加工技術により高い性能を有する木材製品が数多くあります。その高い加工技術や、耐火性、耐久性を有した木材製品の一部を紹介したいと思います。

耐久性や耐火性、防蟻対策について

日本の木造住宅

木造建築の住宅で、最も気になる点が、その耐久性や耐火性、そしてシロアリからの防蟻技術だと考えています。日本の木造住宅の耐久性や耐火性、防蟻技術はどのようなものなのでしょう。

住宅にとって最も過酷な環境は気温や湿度の大きな変化です。物質は、温度が高くなると体積が膨張し、逆に温度が下がると体積は小さくなります。また水分を含むと体積が膨張し、水分が抜けると体積が小さくなります。その物体の体積の上下が、住宅にすき間やズレを生じさせ、耐久性が下がる原因となります。また湿度が高いと空気中の水蒸気が水に戻る結露が発生し、またカビや雑菌が繁殖しやすい環境にもなるため、住宅の耐久性が落ちていまいます。日本は夏には35°を越える高温になり 、湿度も非常に高くなります。一方で、冬には雪が降るほどのマイナスの外気温になり、とても乾燥した気候となります。また6月から10月にかけて大量の雨と強い風をともなう台風が年間20個以上、上陸します。日本の住宅は非常に過酷な環境下でも、その耐久性を維持しなくてはならないのです。

また日本は地震が多い国だということは世界的によく知られています。地震は建物自体を大きく揺らし、時には崩壊させるほどの大きな揺れを発生させます。地震の揺れはいつ起こるか予測ができません。そのため、食事の調理の最中に地震が襲った場合、キッチンから火災が発生する可能性が高く、火事に対する耐火性も日本の住宅には求められます。

耐久実験

変化が激しい気候や、強い風と大雨をもたらす台風に耐えうる「耐久性」と、大きな地震が発生しても建物が崩壊しない「耐震性」、そして地震による大規模な火災が発生しても崩壊しない「耐火性」、この3つを兼ね備えた住宅でなければ、日本の家は成り立たないのです。そのため、日本の住宅における火災の安全性に対する法律や、耐震性に対する法律は世界で最も厳しいレベルの基準を求められます。一つの例として、日本では火災が発生した際に、消防を行わなくても、家が焼け落ち崩壊しないことを住宅の基準として求めています。

丸太の断面

また耐震基準についても、「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる」という基準があります。震度5は、地震の揺れによって固定していない家具が動き、物につかまらないと歩くのが困難なほどの揺れです。また震度6から7は、立っているのが困難であり、ドアや窓が地震の揺れで建物が歪み開かなくなり、道路や地面が割れるほどの強い揺れの状態です。このような状態になっても崩壊しないことが、日本の住宅には求められるのです。

日本の木造住宅

また木造建築で気になることとして、シロアリによる木材の食害です。シロアリは木材を食べて食料とします。そのため木造の建築物では被害が出ることがあります。一方で、日本の住宅によく使われるヒノキは、木自体に含まれる油分に高い殺菌作用があり、シロアリやカビの繁殖、細菌を寄せつめるのを防ぐ働きをもっています。またスギに関しても、中心部の芯材については、その成功過程で水分や養分の通り道であった管に、木を腐敗させる細菌やシロアリなどが嫌う成分が入った樹脂や色素を流し込み、水や養分をこれ以上通さないようしてしまいます。そのため、芯材を用いた柱はヒノキ同様にシロアリやカビ、細菌に対して元々強い耐性があるのです。

シロアリやカビ

またシロアリやカビ、細菌は水分を含んだ木材を好む傾向があります。日本の住宅は、地面に柱を建て地面と床にすき間を開け、風通しを良くする高床式の構造になっています。そのため、雨が直接床などに触れることがないよう、構造的にも作られているのです。それでもなお、シロアリやカビや細菌の被害が出ないよう、日本では木造の住宅を建てる場合には、薬剤による土壌への防蟻対策が法律で定められています。またシロアリやカビや細菌を寄せ付けない溶剤を木材自体に浸み込ませ、それらを建材として使用することで、更なる防蟻対策や防腐対策を行っています。

木造建築の耐久性や耐火性

このように、日本の木造建築は、厳しい耐久性や耐火性、耐震性の基準に耐えうるように、高い技術力と木材加工技術によって建築されています。またシロアリやカビ、細菌など、木材を侵食し腐敗させる要因を防止する対策も徹底的にとられているのです。

水蒸気式高温熱処理木材

日本の木造住宅

木材を加熱することにより耐久性能や寸法安定性を向上させる熱処理技術は、森と水の国フィンランドで開発されました。日本ではフィンランドの技術を応用し、より高品質な木材を生み出す新熱処理技術「水蒸気式高熱木材乾燥技術」に改良しました。薬剤を一切使用しないことを前提に、「熱」と「水」だけを使用し、木材の色合いを維持しつつ、木材の性能を最大限に活かす技術開発に成功しました。こうして誕生した「日本型サーモウッド」は、環境に配慮しつつ、木材の品質を最高度に高めた革新的なマテリアルです。

サーモウッドは、産地や樹種を限定しなくとも、高い耐久性・寸法安定性が実現できるので、地域産材を用いることにより、各地の気候風土に合わせて、より低コストで、より最適化した製品を生産することも可能になりました。リサイクルできるエコ木材サーモウッドは、いっさい薬剤を使用していない安全な製品であり、無垢材と同等です。そのため、使用後には、再利用したり、燃料にしたりするなど、リサイクルが可能です。

またサーモウッドは、含水率が低い割に、吸水性が低いため、防腐性能が高く、木材を腐らせる菌類に対して、とても強い木材です。屋外用途としても、理想的な性能を備えています。

サーモウッド

高熱木材乾燥技術により生まれたサーモウッドは、抜群の寸法安定性を備えています。そのため、外壁やフェンスなど、目に触れる場所への利用に適しており、必要最小限のメンテナンスで済むので、無処理木材よりもランニングコストがかからず、経済的なのです。

高度保存樹脂処理木材

ウッドデッキ

住宅や公共施設、大型の商業施設などでウッドデッキは身近に見られるようになりました。しかし、腐れやシロアリ被害、反りや割れなど、経年劣化による修理や交換周期が短く、コストパフォーマンスの面での課題がありました。その大きな理由は、耐久性を強化するための処理が、材の表面のみにとどまっていたからです。そこで、内部まで均一な高耐久性を持つウッドデッキを開発すべく研究が続けられ、実用化されました。それが京都大学木質科学研究所とメーカーとの共同開発で実現した「マクセラム」です。高度な保存処理樹脂技術により、木材表面だけ環境配慮Ecology・Safty用途多彩Various Appliでなく内部まで、厳しい規制をクリアした特殊な樹脂を独自の加圧釜で浸透させています。従来のデッキと違い格段な耐久性と安全性を実現しています。

高度保存樹脂処理技術が施されたマクセラム

高度保存樹脂処理技術が施されたマクセラムでは、腐朽菌の繁殖を抑えられ、シロアリが好まない材質に変化するため、食害も受けにくくなります。また、単板内部の隅々まで樹脂処理をした後、積層しているので、どこを切っても均一な性能を持ち、カット面への防腐処理も不要です。

また特殊な樹脂処理によって吸水抑制効果も付加されます。寸法変化が極めて小さくなり、反りや割れが生じにくくなり、屋外での厳しい気象変化にも対応できる高い耐久性を実現しています。マクセラムは、屋外の木製デッキをはじめ、ボードウォーク、フロア、ウォーターフロント、プールサイド、ベンチ、遊具、パーゴラ、案内板、ガーデンファニチャーを始めとするエクステリアとして、多彩な用途に使用できます。

マクセラム

無処理材とマクセラムを土中に埋めて、10年間放置しておいたところ、目立った劣化や腐朽菌、白アリ等の被害はありませんでした。木の芯まで特殊な樹脂を浸透させたマクセラムは、長期間土中に埋めても、高い耐久性を維持していることが実験からも証明されました。

窒素加熱処理木材

外の風景

木材を加熱・乾燥させ、性能を高める技術はいくつかありますが、その中で注目されているのが、窒素加熱処理(エステック処理)技術です。200℃以上の窒素加熱で木の腐りやすい成分を分解。これにより形状が安定し、軽量化も実現します。従来の木材に比べて、耐久性も飛躍的に向上しており、遊歩道でも20年を超える耐久実績を誇っています。

エステック処理時には、乾燥とともに殺菌・殺虫も行われます。その効果は長期間にわたり持続され、養分や水分の少ない状態(平衡含水率3%~7%)が維持できるため、菌類やシロアリが寄り付きません。毒性の高い薬品は一切使用しないノンケミカル防腐なので、危険な有害物質が揮発する心配はありません。

日本の木造住宅

エステック処理時には、乾燥とともに殺菌・殺虫も行われます。その効果は長期間にわたり持続され、養分や水分の少ない状態(平衡含水率3%~7%)が維持できるため、菌類やシロアリが寄り付きません。毒性の高い薬品は一切使用しないノンケミカル防腐なので、危険な有害物質が揮発する心配はありません。

防腐・防蟻構造用合板

単板加圧注入処理

環境問題を重視している現代、環境負荷が大きいスクラップアンドビルドを繰り返す従来の住宅ではなく、長期間にわたり住み続けることのできるストック重視の住宅が求められています。日本では、長期にわたり使われる質の高い住宅「超長期優良住宅」の普及に乗り出しており、新たな住宅政策のもと、住宅の「平均寿命」を延ばし、豊かな住生活を実現しています。ここで一役買っているのが、「防腐・防蟻構造用合板」です。高度な「防腐・防蟻処理」を施した合板を構造上重要な部位(床、壁、屋根下地など)に使うことで、木材の腐れを防ぎ、住宅の耐久性を高めます。特にメンテナンス困難な部位(外壁、床下地、水廻り部分の下地用材など)に耐久性の高い合板を使用することにより、劣化に対する対策を十分行うことができます。これらは、資産価値の高い住宅を守る基礎になります。

また単板加圧注入処理では、張り合わせる前の単板の状態で、防腐処理を行ないます。木材を特殊な釜に入れ、高い圧力をかけながら、保存薬を木材表面だけでなく、内部まで深く浸透させます。従来の接着剤に混入するタイプより防腐・防蟻性能が向上し、木材保存処理技術の中では最も高い効果が発揮されます。

厚物構造用合板

ネダノンが張られた住居

ネダノンは厚さを24mm、28mmのように従来よりもはるかに厚くした構造用合板で、スギ、カラマツ、ヒノキ などの日本の木を主な原料にしています。現在、日本で建てられているほとんどの木造住宅の床には、ネダノンが張られています。ネダノンを床に使用することで、床ひいては建物全体の性能が飛躍的に向上しました。ネダノンの生産量は、2000年は1%以下でしたが、2016年には日本で生産される合板の約38%(約116万m3)を占めるようになりました。

ネダノンを張った床は、従来の厚さ12mm合板を張った床と比べて、耐震強度は4倍以上に高くなりました。また、床だけではなく屋根や壁に張ることにより、耐震性 が非常に高い住宅が設計できます。住宅では、ネダノンを長さ75mmの釘を用いて150 ~100mm間隔で留め付けますが、間隔50mm、2列で留EarthQ Resist高耐火Fire Resistant高遮音Silence環境配慮Ecology・Saftyめ付けると、非常に耐震性の高い構面(床、壁、屋根)が構成されます。日本では、このような構面を用いて、中・大規模の木造建築が建てられています。

また従来の床と比べて、ネダノンを張った床は遮音性に優れています。また、たわみも小さくなり、床鳴りのトラブルもなくなりました。また、ネダノンは厚いために、高い耐火性 能を持っています。これにより、避難時間に余裕ができることになります。また、準耐火性能の認証を得たため、アパートの床では設計が有利になるメリットがあります。

住宅などに利用されたネダノンは、住宅が解体されたあと、パーティクルボードなどの原料となります。さらに使用期間を終えたパーティクルボードなどは、バイオマスエネルギーとして熱源や発電に利用されます。

単板積層材(LVL)

単板積層材(LVL)

単板積層材(LVL)は薄板を積層してつくられています。丸太をベニアレースと呼ばれる機械で、厚さ2~4mmの薄板にして乾燥。単板の繊維方向に平行に積層接着してつくられます。合板は主に壁板や床板として、平面的に用いますが、LVLは柱や梁のように細長い部材(軸材)として用いることができます。また、LVLは、製造工程の自動化が可能で、生産性が高いことが長所の一つとなっています。

また小径木や曲がり材、間伐材など短い丸太からでも、単板を縦つぎにして連続することにより、長尺通寸法自由Size Free直材の加工が容易にできます。また、単板積層数を増減することによって用途に応じたどのような厚さの製品でも製造可能。幅、長さについては再割りすることもできます。

単板積層材(LVL)の使用場所

LVL の用途は、自由度は非常に高くなっており、構造材から内装材まで、広い分野で活用されています。駅舎木造住宅建築用(構造材、造作材)、産業建築用(倉庫、体育館、橋梁、畜舎)、建具用(ドア、窓枠、ブラインド)、自動車(トラックの荷台、バスの床)、輸送資材(パレット、梱包、コンテナ)、鉄道(枕木)、仮設材料用(足場板)、航空機(室内装備)、電気部品(家電部材、絶縁材料)、台所用品(まな板、食器、柄)、室内装飾品(時計、飾物)、文房具(筆記用具、彫刻具)、運動用具(ラケット類、ゴルフ用具)、音楽用品(ピアノ、オルガン、ギター)など多彩な用途で利用されています。

耐火集成材

耐火集成材の開発

日本では、石膏被覆、鉄骨とのハイブリッドなどの耐火集成材が開発されています。このうち、FRウッドはスギ材のみを利用した純木質の耐火構造部材です。中心の構造用集成材の周りを、難燃薬剤を含浸させた材で覆っているため、木肌がそのまま現れている耐火木造建築物の建設が実現可能となり、木質のあたたかな空間を創出することができます。

これまで、木造の耐火建築物を実現するためには、石膏ボードなどの不燃材で木を覆うことにより、耐火性能を確保していました。このため「木造ではあるが、木は“見えない”」というジレンマがありました。そこで大学、研究機関と企業が共同で研究開発し、実現したのが新技術製品「FR ウッド」です。柱や梁となる荷重支持部の周囲に難燃薬剤を注入することにより燃え止まり層を形成し、たとえ火災が起きても、構造を支える内部まで燃孔あけ処理焼が進行しない仕組みになっています。

また小断面から大断面まで、設計条件に応じて自由な設計が可能です。最小断面以上の寸法であれば自由な断面設計ができ、いままで以上にさまざまなニーズに応えられるようになりました。

木造住宅の居室

そして耐火建築物を成立させるには、耐火構造の床・壁・天井との組み合わせが容易にできることが必要です。FRウッドは純木質部材のため、接合部や取り合い部の納まりが容易で、従来の木工事でつくることができるのです。

焼杉板

焼杉板を使用した建物

焼杉板とは、表面をあらかじめ焼いて炭化させた板材のことです。日本の伝統的な建材で、主に建物の外壁に使われています。古くは武士や貴族の館から民家まで幅広く取り入れられてきました。そして、現代もなお息づき続けている伝統的な部材です。

焼杉板

特に、耐候性・耐久性と深みのある独特の黒色、意匠性などが評価され、日本国外でも人気が高まっています。木材の耐久性を高めるために、多くの場合、塗装や薬剤を注入しますが、焼杉板は表面を焦がします。表面が炭化され保護されるため、塗装しなくても腐りにくく、虫害などの被害を防ぐ機能が高まり、メンテナンスも長期間不要です。また、焼杉板には空気層ができるため、重量が軽くなり、躯体にかかる負荷が少なくなり、断熱効果・耐火性能が高まります。焼杉板は、機能性と美しさを兼ね備えた壁材です。焼杉板の製造技法により、さまざまなタイプの焼杉をつくることができます。

在来軸組⼯法

住居設計図イラスト

在来軸組工法とは、木造建築物の工法の一つで、木材を使用した土台や柱、梁などで建物を組み立てる工法のことをいいます。これは、木の軸を組み立てて建物を支える日本の伝統的な建築工法で、土台の上に柱を立て、その上に梁を掛け渡し、斜めに筋違いを入れて補強し、壁を組んで作るものです。一般に在来工法は、間取りに融通が利き、大きな開口部が作れ、室内で木の現しができることが特徴となっています。かつては、木材に溝を刻んで噛み合わせる職人技的な工法でしたが、今日では、予め工場で材木をカットしたり、材の接合部に金物を用いたりするなど、工期の短縮や耐久性の強化、耐震性能の向上などが図られています。

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